毎日新聞の社説に想う
・社説:衛星撃墜実験 中国に宇宙の非軍事化迫れ−話題:MSN毎日インタラクティブ
毎日新聞がこのような社説を書いた。今回はこれをネタに言いたい放題書いてみる。
「撃墜」という言葉がおかしい。軌道を回っている衛星は、破壊しただけでは墜落はせず、破片も地球を回り続ける。「撃墜」という言葉は大気圏内を飛行する航空機に使われるべき単語だろう。
もっとも毎日新聞だけでなく、他新聞にもこの間違いは見られるが。
「見当違いではないか」というコメントが見当違いなのだが、理由は後述する。
弾道ミサイルの発射を察知する衛星は「偵察衛星」ではなく「早期警戒衛星」という衛星だ。偵察衛星は主に画像の撮影を行う衛星で、現在の日本が保有している情報収集衛星はこれに分類される。リアルタイムでの画像取得は不可能であり、「ミサイル発射基地に何らかの動きが見られる」とか「○○基地の動きが怪しい」といった情報が得られる。
早期警戒衛星は赤外線センサーなどで弾道ミサイル発射を察知し、すぐさま迎撃ミサイルが撃てるように軍とリンクされている。日本はこのタイプの衛星を保有していない。
別にMD計画への影響を軽視しろとは言わないが、破片問題を後回しにするとはどういう事だろう。この破片のせいで日本の衛星が破壊されても問題無いとでも言うのだろうか。
ここは双方の問題を同等に扱うと言うのがスジというものだ。
この記者は弾道ミサイル迎撃というものをまったく分かっていないらしい。弾道ミサイルは衛星軌道には乗らない(だから”弾道”ミサイルなのだ)。よって弾道ミサイルを迎撃して発生した破片は軌道に乗らず、そのまま大気圏に落下し燃え尽きる。中国が行った衛星の破壊においては、破片自体が軌道を回るため問題になっているのだ。
もちろん衛星を破壊しておきなら宇宙の平和利用を叫ぶ中国の事だからそういう反論がなされる事もあるかも知れないが、その反論に意味が無いと言う事は中国が一番分かっているはずである。
残念だが、日本が協力を申し入れた所で相手にされないだろう。なぜなら中国は自身が持つ宇宙技術に絶対の自信を持っており、米ロは競争相手と認識しているが、日本に関してはアウト・オブ・眼中だからだ。
このように、不勉強な人間が知ったかぶりして記事を書くと、支離滅裂でバカ丸出しの内容になる。書いてある事が真実かどうかを、自分自身で判断する、そういう心構えを日頃からしておくべきだろう。
毎日新聞がこのような社説を書いた。今回はこれをネタに言いたい放題書いてみる。
中国が高度約850キロの宇宙空間を周回している人工衛星を地上から発射したミサイルで撃墜する実験に成功した。
「撃墜」という言葉がおかしい。軌道を回っている衛星は、破壊しただけでは墜落はせず、破片も地球を回り続ける。「撃墜」という言葉は大気圏内を飛行する航空機に使われるべき単語だろう。
もっとも毎日新聞だけでなく、他新聞にもこの間違いは見られるが。
これに対して塩崎恭久官房長官や麻生太郎外相は、破壊された人工衛星の破片が飛び散って、よその国の衛星にぶつかる恐れがあると中国に抗議している。いささか見当違いではないか。
「見当違いではないか」というコメントが見当違いなのだが、理由は後述する。
敵のミサイル攻撃を察知する偵察衛星という「タカの目」があればこそ、迎撃ミサイルを目標に発射できる。
弾道ミサイルの発射を察知する衛星は「偵察衛星」ではなく「早期警戒衛星」という衛星だ。偵察衛星は主に画像の撮影を行う衛星で、現在の日本が保有している情報収集衛星はこれに分類される。リアルタイムでの画像取得は不可能であり、「ミサイル発射基地に何らかの動きが見られる」とか「○○基地の動きが怪しい」といった情報が得られる。
早期警戒衛星は赤外線センサーなどで弾道ミサイル発射を察知し、すぐさま迎撃ミサイルが撃てるように軍とリンクされている。日本はこのタイプの衛星を保有していない。
中国が偵察衛星を撃墜する能力を持つことがはっきりと証明された以上、ミサイル防衛システムへどのような影響があるのか、政府はまず国民に明確に説明すべきではないか。破片問題はその次だ。
別にMD計画への影響を軽視しろとは言わないが、破片問題を後回しにするとはどういう事だろう。この破片のせいで日本の衛星が破壊されても問題無いとでも言うのだろうか。
ここは双方の問題を同等に扱うと言うのがスジというものだ。
衛星の破片を問題にしているだけでは、「日米はミサイルでミサイルを破壊しようとしているのだから、破片はもっとたくさん出る」と中国に反論されるのがおちだろう。
この記者は弾道ミサイル迎撃というものをまったく分かっていないらしい。弾道ミサイルは衛星軌道には乗らない(だから”弾道”ミサイルなのだ)。よって弾道ミサイルを迎撃して発生した破片は軌道に乗らず、そのまま大気圏に落下し燃え尽きる。中国が行った衛星の破壊においては、破片自体が軌道を回るため問題になっているのだ。
もちろん衛星を破壊しておきなら宇宙の平和利用を叫ぶ中国の事だからそういう反論がなされる事もあるかも知れないが、その反論に意味が無いと言う事は中国が一番分かっているはずである。
その溝を埋めるためには、日中の首脳会談を、宇宙の非軍事化を推進し、平和利用の協力を論じあう場にすべきではないか。
残念だが、日本が協力を申し入れた所で相手にされないだろう。なぜなら中国は自身が持つ宇宙技術に絶対の自信を持っており、米ロは競争相手と認識しているが、日本に関してはアウト・オブ・眼中だからだ。
このように、不勉強な人間が知ったかぶりして記事を書くと、支離滅裂でバカ丸出しの内容になる。書いてある事が真実かどうかを、自分自身で判断する、そういう心構えを日頃からしておくべきだろう。
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中国の人工衛星破壊実験成功に想う
中国が軌道上の人工衛星を地上からのミサイル発射により破壊する実験に成功した。
・中国:衛星兵器実験に成功 米が懸念表明
・【関連】衛星破壊実験 中国紙『平和目的』
・2007-01-17 中国、対人工衛星破壊兵器試験実施
・中国、衛星破壊実験に成功 弾道ミサイル使用
などを参照のこと。

今回は実験であるため、破壊された衛星は自国中国の気象衛星である。だが、言うまでもなく多くの破片、すなわちスペースデブリをまき散らした事になるため、当然このスペースデブリが他国はもちろん中国の衛星や宇宙船などに衝突し、何らかの影響を与える事は十分にあり得る。
この成功に対して、そんなに驚く事ではないとか、過小評価する向きがある。例えばこの人のように「飛来する弾道ミサイルと違い、静止している気象衛星を破壊することは難しくない。中国軍の衛星撃破技術はまだ幼稚だ」などと考えている人も少なくないが、これは大きな間違いである。まず衛星は静止していない。秒速8km近い速度で飛んでいる。それに弾頭を衝突させるというのは並大抵の事ではない。また、宇宙船のランデブーしてドッキングする技術のような物、という意見もあるが、これも間違いだ。ランデブーは、相手の衛星とほぼ同じ軌道に乗り、相対速度を小さくし、その後ドッキングを行うわけだが、今回の実験はそんな事はしていない。弾頭を直接ぶつけ、相手の運動エネルギーを最大限利用して破壊している。ランデブーなんてしていないのだ。
確かに今回は目標衛星の軌道が十分に分かっている(何せ自分で打ち上げた衛星なのだから)から、多少難易度が低いという事もあったかもしれない。だが、中国は明らかに、必要とあらば邪魔な衛星を撃ち落とす事が出来る技術を手に入れたのだ。
私としてはこの成功は、北朝鮮の核実験と同じぐらいの暴挙だと感じている。いや、まだミサイルに搭載出来る核を開発出来ていない(と思われる)北朝鮮と違い、明日にでも日本の低軌道衛星を破壊する事が出来る兵器を持った分、中国の方が性質が悪いと言えよう。
この件に関しては、恐らくセルフさんも記事を書かれると思うので、読者の皆さんはそちらにも注目して欲しい。
・中国:衛星兵器実験に成功 米が懸念表明
・【関連】衛星破壊実験 中国紙『平和目的』
・2007-01-17 中国、対人工衛星破壊兵器試験実施
・中国、衛星破壊実験に成功 弾道ミサイル使用
などを参照のこと。

今回は実験であるため、破壊された衛星は自国中国の気象衛星である。だが、言うまでもなく多くの破片、すなわちスペースデブリをまき散らした事になるため、当然このスペースデブリが他国はもちろん中国の衛星や宇宙船などに衝突し、何らかの影響を与える事は十分にあり得る。
この成功に対して、そんなに驚く事ではないとか、過小評価する向きがある。例えばこの人のように「飛来する弾道ミサイルと違い、静止している気象衛星を破壊することは難しくない。中国軍の衛星撃破技術はまだ幼稚だ」などと考えている人も少なくないが、これは大きな間違いである。まず衛星は静止していない。秒速8km近い速度で飛んでいる。それに弾頭を衝突させるというのは並大抵の事ではない。また、宇宙船のランデブーしてドッキングする技術のような物、という意見もあるが、これも間違いだ。ランデブーは、相手の衛星とほぼ同じ軌道に乗り、相対速度を小さくし、その後ドッキングを行うわけだが、今回の実験はそんな事はしていない。弾頭を直接ぶつけ、相手の運動エネルギーを最大限利用して破壊している。ランデブーなんてしていないのだ。
確かに今回は目標衛星の軌道が十分に分かっている(何せ自分で打ち上げた衛星なのだから)から、多少難易度が低いという事もあったかもしれない。だが、中国は明らかに、必要とあらば邪魔な衛星を撃ち落とす事が出来る技術を手に入れたのだ。
私としてはこの成功は、北朝鮮の核実験と同じぐらいの暴挙だと感じている。いや、まだミサイルに搭載出来る核を開発出来ていない(と思われる)北朝鮮と違い、明日にでも日本の低軌道衛星を破壊する事が出来る兵器を持った分、中国の方が性質が悪いと言えよう。
この件に関しては、恐らくセルフさんも記事を書かれると思うので、読者の皆さんはそちらにも注目して欲しい。
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軌道エレベーターに想う
新年あけましておめでとうございます。今年もマイペースに、粛々と更新を続けていきますので、どうぞよろしく。

軌道エレベーターの想像図(NASA提供)
軌道エレベーターとは、文字通り地球の軌道まで続いているエレベーターの事である。つまり何十億もかけたロケットやスペースシャトルに乗って、大仰に炎や煙を吐き、死の危険と隣り合わせのまま宇宙に行くという事をせずとも、エレベーターに乗って気軽に安く簡単に宇宙に行けてしまうのだ。
そんな事は可能なのか、と言えば、可能である。その内容を簡単に説明したい。
さて、人工衛星の軌道にはいくつか種類があり、その一つに「静止軌道」という軌道があるという事は、このブログの準天頂衛星の記事で書いた。おさらいすると、ある人工衛星が軌道を1周するのに掛かる時間、つまり”軌道周期”が、地球が1日に1回転する、つまり自転するのに掛かる時間”自転周期”がほぼ等しい時、地球からその人工衛星を見た時にまるで空の一点に静止しているかのように見える。静止軌道とはそういう軌道だ。衛星から常に決まった方向に電波を降らしたり、地球の決まった面を観測できるため、通信・放送衛星や気象衛星に良く使われる軌道だ。先日、日本のH-IIA11号機が打ち上げた「きく8号」も、この静止軌道に位置する。
この静止軌道の衛星から、強靭なケーブルを垂らしたとしよう。そのケーブルの端は、静止軌道直下、つまり地球の赤道上のどこかに落ちる。その端を地上で固定し、ケーブルを伝って上昇したり下降したり出来る乗り物を走らせれば、軌道エレベーターの完成である。ケーブルを伝うと言う点で、エレベーターよりは鉄道に近いかもしれない。
ただ、静止衛星からケーブルを地球に垂らす際、地球と反対側にもケーブルを伸ばす必要がある。なぜなら地球側だけにケーブルを伸ばすと、そのケーブルにかかる重力が、軌道を回る衛星にかかる遠心力を上回ってしまい、静止軌道から衛星が外れてしまうからだ。重心を常に静止衛星に位置させるために、反対側にケーブルを伸ばす必要があるのだ。
この際、反対側のケーブルに質量の大きな物、例えば小惑星などを結んでおけば、比較的短い長さのケーブルでも重心位置を静止軌道に保つ事が出来る。
エレベーターと呼称されるが、実際はリニアモーターカーを走らせる事が計画されている。だから前述のように、エレベーターと言うより鉄道であると言える。動力源には電気を使い、その電力はケーブルを使用して供給される。地球〜静止軌道間のケーブルを走行する車両は、軌道速度を持っていない。だから下りの車両は放っておけばどんどん地球に落下する。この際、ブレーキを利用して電力を取り出す(いわゆる回生ブレーキ)という事をすれば、トータルで使用される電力は安く済む。
運用コストは現在のロケットを使用した宇宙飛行とは比べ物にならないほど安い。これは宇宙開発の世界全体に革命的な価格破壊をもたらすだろう。
良く地球近傍に飛来した小惑星(またその欠片)や、近年話題のスペースデブリ(宇宙を漂うロケットの部品や使い古された人工衛星)が衝突するから危ないと言われるが、そんな物は許容範囲に収まっている。飛来する隕石なんてたかが知れているし、デブリも衝突する可能性は低い。航空機にとってのバードストライク(エンジンに鳥を吸い込んでしまう事故)や、悪天候による揺れなどと等価である。乗り物を運行する以上、事故はつきものであり、それを恐れていては飛行機も自動車も、自転車も三輪車ですら走る事が出来ない世の中になる。
とは言え、スペースデブリが衝突すれば、その相対速度の差による大規模な事故は免れない事も確かである。だが、デブリバンパーのような装備を適切に装備しておけば致命的な事故も防げる。また、軌道エレベーターの実用化により、スペースデブリの発生そのものすら無くす事が出来る。宇宙に行く事が容易くなれば、既存デブリの回収も不可能ではない。
さて、静止軌道は地上から高度36000kmに位置する。そんな長さでも耐えられるロープが、果たして存在するのだろうか。
ここで”自重破断長”という言葉を覚えてほしい。自重破断長とは、簡単に言えばその素材を使ったロープを1Gの環境下(つまり地球)で垂らした際、自重で切れる限界の長さは幾つか、という数字である。例えば鋼鉄ケーブルの自重破断長は50km、つまり高度50km以上の上空から鋼鉄ケーブルを垂らすと、50kmまで垂らした所で自重で切れてしまうという事だ。もちろん実際は風などの影響があるため、50kmより短くても切れる。軌道エレベーターに求められる自重破断長は約5000kmである(36000kmではないのかと言われそうだが、高度が上がるにつれて重力が弱くなる為、5000kmで良いのだ)。
そんな軌道エレベーターに使えるような素材が、果たして存在するのか。実は存在する。その素材とは、カーボンナノチューブである。
カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男氏によって発見された。カーボンの名前から分かる通り、炭素の同素体である。同素体とは、同じ元素から構成されているが、原子配列や結合の仕方が違うために、全く異なる特性を持つ物質の事を指す。炭素の場合、鉛筆等に使われる黒鉛と、ダイヤモンドの違いが良い例である。両者は共に炭素という同一の元素から構成されているが、その特性は大きく違っている。カーボンナノチューブもこれと同じで、黒煙やダイヤモンドの同素体である。
カーボンナノチューブの特長は、何と言っても強靭であるという事にある。宇宙で最も強靭で、人類はこれ以上の素材を作り出せないとすら言われている。そしてカーボンナノチューブの自重破断長は、理論上最大100000kmである。ただし、条件として純粋に1本のケーブルになっている必要がある。短いカーボンナノチューブをつなぎ合わせても、10000kmは達成できない。しかし、現状では10000kmはもちろん、1kmも、1mも、1mmのカーボン・ナノチューブですら作り出せておらず、目下世界中の研究所で研究が続けられている最中である。
カーボンナノチューブの持つ可能性は、何も軌道エレベーターだけではない。電子部品から航空機まで、実に多岐に渡って使用される可能性を秘めている。カーボンナノチューブは強靭なだけではなく、その構造が中空になっているため、とても軽い。また、その中空部分に別の物質を封じ込める事で、強靭・軽量以外の特性を持たせる事も出来る。つまり我々の生活で使うあらゆる物に応用可能である。まさに夢の素材なのだ。
さて、前々回のスペースプレーンの記事でもカーボンナノチューブという単語を出した。つまりカーボンナノチューブが実用化できれば、軽量かつ十分な強度を持つ航空機用材料が開発出来る可能性があり、それはすなわち、スペースプレーンの実用化にもつながる可能性があるという事だ。
現在、軌道エレベーターの開発は米国のリフトポート社で進められており、2018年4月12日に運行を開始する予定だ。対して、スペースプレーンの開発は日米欧露各国、停滞状態である。
10年、20年後の宇宙輸送システムがどうなっているのか今から想像する事は難しい。が、ひとつだけ言える事は、軌道エレベーターは決して、かつて天を目指して建設するも崩れてしまったと言い伝えられている、「バベルの塔」の再現ではないのである。
なお、軌道エレベーターの解説本や、軌道エレベーターが劇中に登場するSF小説はいくつかあるが、個人的にはアーサー・C・クラークの「楽園の泉」をお勧めする。これはあらゆる人にぜひ読んで欲しい一冊である。

軌道エレベーターの想像図(NASA提供)
軌道エレベーターとは、文字通り地球の軌道まで続いているエレベーターの事である。つまり何十億もかけたロケットやスペースシャトルに乗って、大仰に炎や煙を吐き、死の危険と隣り合わせのまま宇宙に行くという事をせずとも、エレベーターに乗って気軽に安く簡単に宇宙に行けてしまうのだ。
そんな事は可能なのか、と言えば、可能である。その内容を簡単に説明したい。
さて、人工衛星の軌道にはいくつか種類があり、その一つに「静止軌道」という軌道があるという事は、このブログの準天頂衛星の記事で書いた。おさらいすると、ある人工衛星が軌道を1周するのに掛かる時間、つまり”軌道周期”が、地球が1日に1回転する、つまり自転するのに掛かる時間”自転周期”がほぼ等しい時、地球からその人工衛星を見た時にまるで空の一点に静止しているかのように見える。静止軌道とはそういう軌道だ。衛星から常に決まった方向に電波を降らしたり、地球の決まった面を観測できるため、通信・放送衛星や気象衛星に良く使われる軌道だ。先日、日本のH-IIA11号機が打ち上げた「きく8号」も、この静止軌道に位置する。
この静止軌道の衛星から、強靭なケーブルを垂らしたとしよう。そのケーブルの端は、静止軌道直下、つまり地球の赤道上のどこかに落ちる。その端を地上で固定し、ケーブルを伝って上昇したり下降したり出来る乗り物を走らせれば、軌道エレベーターの完成である。ケーブルを伝うと言う点で、エレベーターよりは鉄道に近いかもしれない。
ただ、静止衛星からケーブルを地球に垂らす際、地球と反対側にもケーブルを伸ばす必要がある。なぜなら地球側だけにケーブルを伸ばすと、そのケーブルにかかる重力が、軌道を回る衛星にかかる遠心力を上回ってしまい、静止軌道から衛星が外れてしまうからだ。重心を常に静止衛星に位置させるために、反対側にケーブルを伸ばす必要があるのだ。
この際、反対側のケーブルに質量の大きな物、例えば小惑星などを結んでおけば、比較的短い長さのケーブルでも重心位置を静止軌道に保つ事が出来る。
エレベーターと呼称されるが、実際はリニアモーターカーを走らせる事が計画されている。だから前述のように、エレベーターと言うより鉄道であると言える。動力源には電気を使い、その電力はケーブルを使用して供給される。地球〜静止軌道間のケーブルを走行する車両は、軌道速度を持っていない。だから下りの車両は放っておけばどんどん地球に落下する。この際、ブレーキを利用して電力を取り出す(いわゆる回生ブレーキ)という事をすれば、トータルで使用される電力は安く済む。
運用コストは現在のロケットを使用した宇宙飛行とは比べ物にならないほど安い。これは宇宙開発の世界全体に革命的な価格破壊をもたらすだろう。
良く地球近傍に飛来した小惑星(またその欠片)や、近年話題のスペースデブリ(宇宙を漂うロケットの部品や使い古された人工衛星)が衝突するから危ないと言われるが、そんな物は許容範囲に収まっている。飛来する隕石なんてたかが知れているし、デブリも衝突する可能性は低い。航空機にとってのバードストライク(エンジンに鳥を吸い込んでしまう事故)や、悪天候による揺れなどと等価である。乗り物を運行する以上、事故はつきものであり、それを恐れていては飛行機も自動車も、自転車も三輪車ですら走る事が出来ない世の中になる。
とは言え、スペースデブリが衝突すれば、その相対速度の差による大規模な事故は免れない事も確かである。だが、デブリバンパーのような装備を適切に装備しておけば致命的な事故も防げる。また、軌道エレベーターの実用化により、スペースデブリの発生そのものすら無くす事が出来る。宇宙に行く事が容易くなれば、既存デブリの回収も不可能ではない。
さて、静止軌道は地上から高度36000kmに位置する。そんな長さでも耐えられるロープが、果たして存在するのだろうか。
ここで”自重破断長”という言葉を覚えてほしい。自重破断長とは、簡単に言えばその素材を使ったロープを1Gの環境下(つまり地球)で垂らした際、自重で切れる限界の長さは幾つか、という数字である。例えば鋼鉄ケーブルの自重破断長は50km、つまり高度50km以上の上空から鋼鉄ケーブルを垂らすと、50kmまで垂らした所で自重で切れてしまうという事だ。もちろん実際は風などの影響があるため、50kmより短くても切れる。軌道エレベーターに求められる自重破断長は約5000kmである(36000kmではないのかと言われそうだが、高度が上がるにつれて重力が弱くなる為、5000kmで良いのだ)。
そんな軌道エレベーターに使えるような素材が、果たして存在するのか。実は存在する。その素材とは、カーボンナノチューブである。
カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男氏によって発見された。カーボンの名前から分かる通り、炭素の同素体である。同素体とは、同じ元素から構成されているが、原子配列や結合の仕方が違うために、全く異なる特性を持つ物質の事を指す。炭素の場合、鉛筆等に使われる黒鉛と、ダイヤモンドの違いが良い例である。両者は共に炭素という同一の元素から構成されているが、その特性は大きく違っている。カーボンナノチューブもこれと同じで、黒煙やダイヤモンドの同素体である。
カーボンナノチューブの特長は、何と言っても強靭であるという事にある。宇宙で最も強靭で、人類はこれ以上の素材を作り出せないとすら言われている。そしてカーボンナノチューブの自重破断長は、理論上最大100000kmである。ただし、条件として純粋に1本のケーブルになっている必要がある。短いカーボンナノチューブをつなぎ合わせても、10000kmは達成できない。しかし、現状では10000kmはもちろん、1kmも、1mも、1mmのカーボン・ナノチューブですら作り出せておらず、目下世界中の研究所で研究が続けられている最中である。
カーボンナノチューブの持つ可能性は、何も軌道エレベーターだけではない。電子部品から航空機まで、実に多岐に渡って使用される可能性を秘めている。カーボンナノチューブは強靭なだけではなく、その構造が中空になっているため、とても軽い。また、その中空部分に別の物質を封じ込める事で、強靭・軽量以外の特性を持たせる事も出来る。つまり我々の生活で使うあらゆる物に応用可能である。まさに夢の素材なのだ。
さて、前々回のスペースプレーンの記事でもカーボンナノチューブという単語を出した。つまりカーボンナノチューブが実用化できれば、軽量かつ十分な強度を持つ航空機用材料が開発出来る可能性があり、それはすなわち、スペースプレーンの実用化にもつながる可能性があるという事だ。
現在、軌道エレベーターの開発は米国のリフトポート社で進められており、2018年4月12日に運行を開始する予定だ。対して、スペースプレーンの開発は日米欧露各国、停滞状態である。
10年、20年後の宇宙輸送システムがどうなっているのか今から想像する事は難しい。が、ひとつだけ言える事は、軌道エレベーターは決して、かつて天を目指して建設するも崩れてしまったと言い伝えられている、「バベルの塔」の再現ではないのである。
なお、軌道エレベーターの解説本や、軌道エレベーターが劇中に登場するSF小説はいくつかあるが、個人的にはアーサー・C・クラークの「楽園の泉」をお勧めする。これはあらゆる人にぜひ読んで欲しい一冊である。
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H-IIAロケットに想う
前回、次回は軌道エレベーターの話をすると言っていたが、たまには時事ネタを扱おうと言う事で、今回は急きょ16日のH-IIA11号機打ち上げに合わせ、H-IIAに至るまでの日本のロケットの歴史を振り返り、そして今後を考えてみたい。

H-IIA9号機の打ち上げ(JAXA提供)
1945年、太平洋戦争に敗北した日本は、GHQにより航空機に関する研究の一切を禁止された。7年後、サンフランシスコ講和条約の発効によりその禁止は解かれるが、その7年の間に欧米では航空機技術は飛躍的に進化し、ジェット機がすでに飛んでいた。7年間の停滞は、日本の航空機技術にとっては30年、あるいは50年分の遅れとも言える、致命的な影響を与えた。
そこで登場するのが鬼才・糸川英夫である。太平洋戦争で活躍した一式戦闘機「隼」などの開発に関わった糸川は、次はロケットに目を付けており、1955年には日本初のロケット「ペンシル」の試射に成功している。
当時米ソは、大戦中にドイツで開発されたロケット兵器「V-2」の技術と、そして技術者を自国に取り入れ、ロケットの研究を行っていた。つまり米ソはドイツのコピーから始まったのに対し、敗戦国である日本はそれが出来ず、すべて一から開発せざるを得なかったのだ。
そんな不利な状況にも関わらず日本のロケットは急速に進化を遂げ、1970年には東京大学宇宙航空研究所がL-4S(ラムダ4S)ロケット5号機により初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した。その後M(ミュー)ロケットへと進化し、多数の科学衛星の打ち上げ続け、1981年に組織が宇宙科学研究所(ISAS)に改組された後もそれは続けられた。
しかし、これらラムダ、ミューロケットはすべて固体ロケットである。起源であるペンシルロケットが固体ロケットだったという理由もあるが、そもそも大学の研究所が液体ロケットの開発を行う事は当時としては難しかった事、そして何より固体ロケットの技術がかなり蓄積されていたから、という理由がある。だが、固体ロケットは大型化が難しく、また制御の融通が利かないため、商業衛星の打ち上げにはあまり向いていない。
1969年、科学技術庁に所属する特殊法人として宇宙開発事業団(NASDA)が設立された。科学目的での宇宙開発を進める東大宇宙航空研とは違い、実用目的での宇宙開発を進める事を目的とされた。
だが、前述のように日本には固体ロケットの技術しかなく、また液体ロケットの開発は難航していた。そこに登場するのが、NASDA初代理事長である島秀雄である。
島は国鉄出身の人間で、かつてはD51をはじめとする多数の蒸気機関車を設計し、そして戦後には新幹線計画を率いた、まさにスーパーエンジニアである。彼がNASDA理事長に就任した直後、液体ロケットの開発を国内で行うか、あるいはアメリカから技術導入するかの選択を迫られた。だが、躊躇なくアメリカからの技術導入を決定する。こうしてアメリカのデルタロケットの技術を取り入れ、日本初の実用ロケットN-Iが誕生した。そして徐々に高性能化を進め、N-II、H-Iと開発していったが、H-Iになっても第1段メインエンジンなどはアメリカの技術だった。
だが、いつまでもアメリカの技術に頼っているわけにはいかない。そこで純国産でロケットを開発する必然が生まれ、そして開発されたのがH-IIロケットである。だが、純国産故にコストは高く、またあまりにオーバースペックなロケットになってしまった。そこでそのH-IIを改良し、コストダウンを図り国際競争力を高めた、H-IIAロケットが開発されたのである。
H-IIAは現在まで10機の打ち上げが行われ、内9機が成功しており、成功率は90%。わずか10回の打ち上げで成功率90%が達成出来る事は、新型ロケットとしてはかなり優秀であると言える。だが、ロケットは10機や20機打ち上げた所で、成熟した技術とは言えない。今後打ち上げを続ける事で、ロケットとして完成されて行く事だろう。
H-IIAの特徴はバリエーションの豊かさだ。ブースターの本数や衛星の搭載部を数種類から選択する事が出来るため、ミッションに応じて適切なロケットを打ち上げる事が出来る。例えば明日打ち上げ予定の11号機では、SRB-A(固体ロケットブースター)を4本使うタイプが使用される。これはGTO(静止トランスファ軌道)に約6トンの打ち上げ能力を持つ、H-IIAロケットの中では最も強力なロケットである。
だが、H-IIAロケットの将来はまだ不明瞭だ。官需として、環境観測衛星や情報収集衛星などの打ち上げ予定は組まれているものの、まだ国内外の民間企業からの衛星打ち上げ受注は取れていない。H-IIAロケットは来年度から三菱重工への民間移管が決定しているが、衛星打ち上げ受注が取れないと、採算は厳しいものになるだろう。
また、現在H-IIAロケットを改良したH-IIBロケットの開発も進められており、完成すれば国際宇宙ステーション補給機「HTV」の打ち上げに使用される事になるが、そもそも国際宇宙ステーションの完成自体危ぶまれている現在、あまり明るい未来が待ち受けているとは言えない状況だ。
H-IIAは日本の主力ロケットとして、世界のライバルロケットと戦うのに十分な力を持つロケットである。その将来が明るい物になる事を信じつつ、明日の打ち上げの成功を願いたい。

H-IIA9号機の打ち上げ(JAXA提供)
1945年、太平洋戦争に敗北した日本は、GHQにより航空機に関する研究の一切を禁止された。7年後、サンフランシスコ講和条約の発効によりその禁止は解かれるが、その7年の間に欧米では航空機技術は飛躍的に進化し、ジェット機がすでに飛んでいた。7年間の停滞は、日本の航空機技術にとっては30年、あるいは50年分の遅れとも言える、致命的な影響を与えた。
そこで登場するのが鬼才・糸川英夫である。太平洋戦争で活躍した一式戦闘機「隼」などの開発に関わった糸川は、次はロケットに目を付けており、1955年には日本初のロケット「ペンシル」の試射に成功している。
当時米ソは、大戦中にドイツで開発されたロケット兵器「V-2」の技術と、そして技術者を自国に取り入れ、ロケットの研究を行っていた。つまり米ソはドイツのコピーから始まったのに対し、敗戦国である日本はそれが出来ず、すべて一から開発せざるを得なかったのだ。
そんな不利な状況にも関わらず日本のロケットは急速に進化を遂げ、1970年には東京大学宇宙航空研究所がL-4S(ラムダ4S)ロケット5号機により初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げに成功した。その後M(ミュー)ロケットへと進化し、多数の科学衛星の打ち上げ続け、1981年に組織が宇宙科学研究所(ISAS)に改組された後もそれは続けられた。
しかし、これらラムダ、ミューロケットはすべて固体ロケットである。起源であるペンシルロケットが固体ロケットだったという理由もあるが、そもそも大学の研究所が液体ロケットの開発を行う事は当時としては難しかった事、そして何より固体ロケットの技術がかなり蓄積されていたから、という理由がある。だが、固体ロケットは大型化が難しく、また制御の融通が利かないため、商業衛星の打ち上げにはあまり向いていない。
1969年、科学技術庁に所属する特殊法人として宇宙開発事業団(NASDA)が設立された。科学目的での宇宙開発を進める東大宇宙航空研とは違い、実用目的での宇宙開発を進める事を目的とされた。
だが、前述のように日本には固体ロケットの技術しかなく、また液体ロケットの開発は難航していた。そこに登場するのが、NASDA初代理事長である島秀雄である。
島は国鉄出身の人間で、かつてはD51をはじめとする多数の蒸気機関車を設計し、そして戦後には新幹線計画を率いた、まさにスーパーエンジニアである。彼がNASDA理事長に就任した直後、液体ロケットの開発を国内で行うか、あるいはアメリカから技術導入するかの選択を迫られた。だが、躊躇なくアメリカからの技術導入を決定する。こうしてアメリカのデルタロケットの技術を取り入れ、日本初の実用ロケットN-Iが誕生した。そして徐々に高性能化を進め、N-II、H-Iと開発していったが、H-Iになっても第1段メインエンジンなどはアメリカの技術だった。
だが、いつまでもアメリカの技術に頼っているわけにはいかない。そこで純国産でロケットを開発する必然が生まれ、そして開発されたのがH-IIロケットである。だが、純国産故にコストは高く、またあまりにオーバースペックなロケットになってしまった。そこでそのH-IIを改良し、コストダウンを図り国際競争力を高めた、H-IIAロケットが開発されたのである。
H-IIAは現在まで10機の打ち上げが行われ、内9機が成功しており、成功率は90%。わずか10回の打ち上げで成功率90%が達成出来る事は、新型ロケットとしてはかなり優秀であると言える。だが、ロケットは10機や20機打ち上げた所で、成熟した技術とは言えない。今後打ち上げを続ける事で、ロケットとして完成されて行く事だろう。
H-IIAの特徴はバリエーションの豊かさだ。ブースターの本数や衛星の搭載部を数種類から選択する事が出来るため、ミッションに応じて適切なロケットを打ち上げる事が出来る。例えば明日打ち上げ予定の11号機では、SRB-A(固体ロケットブースター)を4本使うタイプが使用される。これはGTO(静止トランスファ軌道)に約6トンの打ち上げ能力を持つ、H-IIAロケットの中では最も強力なロケットである。
だが、H-IIAロケットの将来はまだ不明瞭だ。官需として、環境観測衛星や情報収集衛星などの打ち上げ予定は組まれているものの、まだ国内外の民間企業からの衛星打ち上げ受注は取れていない。H-IIAロケットは来年度から三菱重工への民間移管が決定しているが、衛星打ち上げ受注が取れないと、採算は厳しいものになるだろう。
また、現在H-IIAロケットを改良したH-IIBロケットの開発も進められており、完成すれば国際宇宙ステーション補給機「HTV」の打ち上げに使用される事になるが、そもそも国際宇宙ステーションの完成自体危ぶまれている現在、あまり明るい未来が待ち受けているとは言えない状況だ。
H-IIAは日本の主力ロケットとして、世界のライバルロケットと戦うのに十分な力を持つロケットである。その将来が明るい物になる事を信じつつ、明日の打ち上げの成功を願いたい。
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スペースプレーンに想う
前回は有翼宇宙機について書いた。今回はその延長線上に存在する、完全再使用有翼宇宙往還機「スペースプレーン」について考えてみる。

単段式スペースプレーンの想像図(JAXA提供)
ロケットの打ち上げというのは派手である。轟音を発しつつ、煙を盛大にまき散らしながら上昇し、途中で余分になった部分を次々に捨て、最終的には先端の、ロケット全体から見ればかなり少ない部分だけが軌道に乗る事が出来る。
スペースプレーンは、こういう現状のロケットとは違い、飛行機のように運用できる宇宙機の事である。つまり燃料さえ補給すれば何回でも同一の機体で人や貨物を宇宙に運ぶ事が出来る夢の乗り物だ。・・・そう、”夢”なのだ。
滑走路から離陸するという点において、スペースプレーンはロケットではなく飛行機に分類される。離陸の際に使用するエンジンはロケットエンジンではなく、普通のジェットエンジンだ。そうして離陸したスペースプレーンは、速度を稼ぎつつ高度を上げる。そして最終的には第一宇宙速度(7.9km/s、約マッハ23)に到達・・・できるはずがない。現用のジェットエンジンで出せる速度はせいぜい約マッハ3。その程度の速度で宇宙に行く事は不可能だ。
その限界を打破するため、まったく新しいエンジンの開発が進められている。それがラムジェットエンジンである。現用のジェットエンジン、すなわちターボジェットエンジンは、ファンを回して空気を吸入して圧縮し、燃料と混合させて燃焼、そのガスを噴射するという仕組みである。ラムジェットエンジンはファンを用いない。飛行中にエンジンに自然に流入する大気(超音速大気)を使うのだ。例えるなら魚のマグロと同じで、停止した状態ではマグロが死んでしまうように、ラムジェットエンジンも稼働できない。つまりジェットエンジンである程度まで加速してからでないと使えないのだが、ラムジェットエンジンはマッハ6まで使う事が出来るとされている。
言うまでもなくマッハ6では、目標のマッハ23には到底及ばない。そこで使うのがスクラムジェットである。流入する大気の速度が超音速の範囲でしか使えないラムジェットエンジンより進化し、スクラムジェットエンジンでは極超音速大気を取り込んで燃焼、噴射する事が出来る。スクラムジェットエンジンは理論上マッハ17の範囲まで使用する事が出来る。目標のマッハ23から見るとかなりいい所まで加速できる。あとはロケットエンジンで加速すれば、楽々宇宙に・・・だが現実は、そう簡単には行かない。
ここでスペースプレーンの運用法を考えてみる。まず速度0から、スクラムジェットエンジンが使えるマッハ5まで加速させるには、ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンの組み合わせか、ロケットエンジンを使用、そこからはスクラムジェットエンジンでマッハ17まで加速し、あとはロケットエンジンでマッハ23まで加速する、というスタイルが考えられる。
ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンの2つを組み合わせて使用する事は、生産性、整備性の問題から現実的ではない。だから離陸時もロケットエンジンを使用する事にしよう。すると、ロケットエンジン2つとスクラムジェットエンジンを1つを抱き抱えた、実におデブな機体になってしまう。また、この場合、ロケットエンジンはマッハ23を出すのに必要なエネルギーの50%を担わなくてはならない。逆にいえば、スクラムジェットエンジンを使ったところで、マッハ23を出すのに必要な半分のエネルギーしか賄う事が出来ないのだ。
さらに「日本航空宇宙学会誌」1998年6月号に掲載された論文も紹介しよう。内容はスペースプレーンの設計と飛行経路をシミュレーションで最適化した結果が書いてある。
まず仮定として、速度0からマッハ6まではATRというエンジンを使う。これはエアターボラムエンジンというエンジンで、ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンを合体させて1つのエンジンに収めた形態のエンジンである。その後はスクラムジェットエンジンを使い、最終的にロケットエンジンを使う、というスタイルのスペースプレーンの設計を最適化した。その結果は衝撃的な物で、なんとスクラムジェットエンジンを使わず、ATRとロケットエンジンのみを使用た場合に最適な形態、つまり機体重量が最少で、最も無駄なく飛行できる、という事になったのだ。つまり殆どをロケットエンジンに頼った方が良いと言うのである。また、生産性、整備性を考慮すると、ATRも使用せず、すべてロケットエンジンを使った方が良いと言う事になるだろう。
その他、世界中で行われたシミュレーションの結果を総合しても、約80%はロケットエンジンを使わなければスペースプレーンは実用化出来ない、という結果になってしまっている。
だが、諦めるのはまだ早い。上記の話は、単段式スペースプレーン、つまりエンジンも燃料タンクもすべて1つの機体に収めたスタイルの機体だ。スペースプレーンの構成はこれだけではない。単段式があれば2段式もあるのだ。

2段式スペースプレーンの想像図(画像提供:JAXA)
2段式スペースプレーンの1段目は超音速旅客機とほぼ同じである。その背中に2段目となる機体を搭載して飛行させる。当然、人や貨物はこの2段目に収める。1段目が限界まで加速上昇した後、機体を分離させ2段目のロケットエンジンでさらに加速上昇、宇宙に到達する。1段目はそのまま地球のどこかの滑走路に着陸させる。
だが、この場合、運用はかなり複雑なものになる。まず現在まで造った事が無い未知の飛行機を2機分開発し、運用する事になる。マッハ3以上で飛ぶ飛行機など数えるほどしか存在しないし、大型機となれば皆無である。その他、地上の設備、極超音速域での機体の切り放し、緊急時の着陸場所なども考えると、開発、運用は困難を極める。
するとある答えが見えてくる。そもそもラムジェットエンジンや、スクラムジェットエンジンなんて使わなくても良いのではないか、という事だ。
その通りである。最も単純かつ合理的な宇宙への輸送手段は、すべてロケットエンジンを使った機体、すなわち現状のロケットなのである。
こうなるともう翼云々の話は立消えである。ロケットはそもそも、打ち上げ直後はとっとと大気圏から抜け出し、その後は機体を傾けて速度を稼ぐと言う運用を行っている。翼を使う余地は生まれない。そして帰還時も翼が無駄だと言う事は前回書いた通りだ。
このように現状では、スペースプレーン実現の可能性はほぼ皆無である。
だが、これから先、未来永劫、不要部品を捨てながら飛んで行くロケットが使えるかと言えば、否である。燃料に液体酸素/液体水素を使い、環境にあまり影響を与えないからと言って、ロケット本体を年間100機や200機、海に捨てると言うのは言語道断である。
スクラムジェットエンジンは2005年にアメリカのX-43Aという実験機がマッハ9.6に到達する事に成功した。がしかし、最近はブッシュ大統領の「月や火星に人類を送り込む」という新計画の余波で予算が苦しい状況にあると言う。
また、機体をもっと軽くて丈夫な素材で作る事が出来ればスペースプレーンの実用化に拍車がかかるだろう。現在有望視されているのはカーボンナノチューブであり、目下研究中である。
現在はまだ造る事は出来ない。だが、近い将来、スペースプレーンが実用化出来る日が来るかも知れない。無論それは決して明日・明後日の話ではない。現実を見て、着実に研究・開発を続ける事が、スペースプレーンへの最短経路である。
スペースシャトルの失敗は、夢を早く見すぎ、現実を見誤った結果である。スペースプレーンの開発において、決して同じ轍を踏んではならないと私は思う。
さて、先ほどカーボンナノチューブという単語を出した。次回はこのカーボンナノチューブを使用した宇宙輸送システム「軌道エレベーター」について書こうと思う。

単段式スペースプレーンの想像図(JAXA提供)
ロケットの打ち上げというのは派手である。轟音を発しつつ、煙を盛大にまき散らしながら上昇し、途中で余分になった部分を次々に捨て、最終的には先端の、ロケット全体から見ればかなり少ない部分だけが軌道に乗る事が出来る。
スペースプレーンは、こういう現状のロケットとは違い、飛行機のように運用できる宇宙機の事である。つまり燃料さえ補給すれば何回でも同一の機体で人や貨物を宇宙に運ぶ事が出来る夢の乗り物だ。・・・そう、”夢”なのだ。
滑走路から離陸するという点において、スペースプレーンはロケットではなく飛行機に分類される。離陸の際に使用するエンジンはロケットエンジンではなく、普通のジェットエンジンだ。そうして離陸したスペースプレーンは、速度を稼ぎつつ高度を上げる。そして最終的には第一宇宙速度(7.9km/s、約マッハ23)に到達・・・できるはずがない。現用のジェットエンジンで出せる速度はせいぜい約マッハ3。その程度の速度で宇宙に行く事は不可能だ。
その限界を打破するため、まったく新しいエンジンの開発が進められている。それがラムジェットエンジンである。現用のジェットエンジン、すなわちターボジェットエンジンは、ファンを回して空気を吸入して圧縮し、燃料と混合させて燃焼、そのガスを噴射するという仕組みである。ラムジェットエンジンはファンを用いない。飛行中にエンジンに自然に流入する大気(超音速大気)を使うのだ。例えるなら魚のマグロと同じで、停止した状態ではマグロが死んでしまうように、ラムジェットエンジンも稼働できない。つまりジェットエンジンである程度まで加速してからでないと使えないのだが、ラムジェットエンジンはマッハ6まで使う事が出来るとされている。
言うまでもなくマッハ6では、目標のマッハ23には到底及ばない。そこで使うのがスクラムジェットである。流入する大気の速度が超音速の範囲でしか使えないラムジェットエンジンより進化し、スクラムジェットエンジンでは極超音速大気を取り込んで燃焼、噴射する事が出来る。スクラムジェットエンジンは理論上マッハ17の範囲まで使用する事が出来る。目標のマッハ23から見るとかなりいい所まで加速できる。あとはロケットエンジンで加速すれば、楽々宇宙に・・・だが現実は、そう簡単には行かない。
ここでスペースプレーンの運用法を考えてみる。まず速度0から、スクラムジェットエンジンが使えるマッハ5まで加速させるには、ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンの組み合わせか、ロケットエンジンを使用、そこからはスクラムジェットエンジンでマッハ17まで加速し、あとはロケットエンジンでマッハ23まで加速する、というスタイルが考えられる。
ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンの2つを組み合わせて使用する事は、生産性、整備性の問題から現実的ではない。だから離陸時もロケットエンジンを使用する事にしよう。すると、ロケットエンジン2つとスクラムジェットエンジンを1つを抱き抱えた、実におデブな機体になってしまう。また、この場合、ロケットエンジンはマッハ23を出すのに必要なエネルギーの50%を担わなくてはならない。逆にいえば、スクラムジェットエンジンを使ったところで、マッハ23を出すのに必要な半分のエネルギーしか賄う事が出来ないのだ。
さらに「日本航空宇宙学会誌」1998年6月号に掲載された論文も紹介しよう。内容はスペースプレーンの設計と飛行経路をシミュレーションで最適化した結果が書いてある。
まず仮定として、速度0からマッハ6まではATRというエンジンを使う。これはエアターボラムエンジンというエンジンで、ターボジェットエンジンとラムジェットエンジンを合体させて1つのエンジンに収めた形態のエンジンである。その後はスクラムジェットエンジンを使い、最終的にロケットエンジンを使う、というスタイルのスペースプレーンの設計を最適化した。その結果は衝撃的な物で、なんとスクラムジェットエンジンを使わず、ATRとロケットエンジンのみを使用た場合に最適な形態、つまり機体重量が最少で、最も無駄なく飛行できる、という事になったのだ。つまり殆どをロケットエンジンに頼った方が良いと言うのである。また、生産性、整備性を考慮すると、ATRも使用せず、すべてロケットエンジンを使った方が良いと言う事になるだろう。
その他、世界中で行われたシミュレーションの結果を総合しても、約80%はロケットエンジンを使わなければスペースプレーンは実用化出来ない、という結果になってしまっている。
だが、諦めるのはまだ早い。上記の話は、単段式スペースプレーン、つまりエンジンも燃料タンクもすべて1つの機体に収めたスタイルの機体だ。スペースプレーンの構成はこれだけではない。単段式があれば2段式もあるのだ。

2段式スペースプレーンの想像図(画像提供:JAXA)
2段式スペースプレーンの1段目は超音速旅客機とほぼ同じである。その背中に2段目となる機体を搭載して飛行させる。当然、人や貨物はこの2段目に収める。1段目が限界まで加速上昇した後、機体を分離させ2段目のロケットエンジンでさらに加速上昇、宇宙に到達する。1段目はそのまま地球のどこかの滑走路に着陸させる。
だが、この場合、運用はかなり複雑なものになる。まず現在まで造った事が無い未知の飛行機を2機分開発し、運用する事になる。マッハ3以上で飛ぶ飛行機など数えるほどしか存在しないし、大型機となれば皆無である。その他、地上の設備、極超音速域での機体の切り放し、緊急時の着陸場所なども考えると、開発、運用は困難を極める。
するとある答えが見えてくる。そもそもラムジェットエンジンや、スクラムジェットエンジンなんて使わなくても良いのではないか、という事だ。
その通りである。最も単純かつ合理的な宇宙への輸送手段は、すべてロケットエンジンを使った機体、すなわち現状のロケットなのである。
こうなるともう翼云々の話は立消えである。ロケットはそもそも、打ち上げ直後はとっとと大気圏から抜け出し、その後は機体を傾けて速度を稼ぐと言う運用を行っている。翼を使う余地は生まれない。そして帰還時も翼が無駄だと言う事は前回書いた通りだ。
このように現状では、スペースプレーン実現の可能性はほぼ皆無である。
だが、これから先、未来永劫、不要部品を捨てながら飛んで行くロケットが使えるかと言えば、否である。燃料に液体酸素/液体水素を使い、環境にあまり影響を与えないからと言って、ロケット本体を年間100機や200機、海に捨てると言うのは言語道断である。
スクラムジェットエンジンは2005年にアメリカのX-43Aという実験機がマッハ9.6に到達する事に成功した。がしかし、最近はブッシュ大統領の「月や火星に人類を送り込む」という新計画の余波で予算が苦しい状況にあると言う。
また、機体をもっと軽くて丈夫な素材で作る事が出来ればスペースプレーンの実用化に拍車がかかるだろう。現在有望視されているのはカーボンナノチューブであり、目下研究中である。
現在はまだ造る事は出来ない。だが、近い将来、スペースプレーンが実用化出来る日が来るかも知れない。無論それは決して明日・明後日の話ではない。現実を見て、着実に研究・開発を続ける事が、スペースプレーンへの最短経路である。
スペースシャトルの失敗は、夢を早く見すぎ、現実を見誤った結果である。スペースプレーンの開発において、決して同じ轍を踏んではならないと私は思う。
さて、先ほどカーボンナノチューブという単語を出した。次回はこのカーボンナノチューブを使用した宇宙輸送システム「軌道エレベーター」について書こうと思う。
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